『徒然草』第92段「ある人、弓射ることを習ふに」は、初心者が二本の矢を持っていたところから始まります。師が止めたのは、二本持つこと自体が危険だからではありません。「次の矢がある」と思う心を見ています。
弟子本人は一本目をおろそかにするつもりなどない。そこがこの話の肝です。
この記事で分かること
- 第92段のあらすじと現代語訳
- なぜ初心者は二本の矢を持ってはいけないのか
- 「懈怠」「一刹那」「一念」などの重要語
- 中学生が押さえたい反語の読み方
- 25問から毎回10問が出る4択テスト
先に読もう|古典リーダー「ある人、弓射ることを習ふに」
最初は弓の話ですが、途中から「万事」の話へ広がります。どこで話題が切り替わるかを意識して読んでください。
まず30秒であらすじ
ある初心者が、二本の矢を持って弓を習っていました。師は「初心者は二本の矢を持ってはいけない。二本目を頼みにすると、最初の一矢をおろそかにする心が生まれる。毎回、この一本だけに定めるつもりで射なさい」と教えます。
もちろん弟子本人は、「一本目を適当に射ろう」と考えているわけではありません。それでも師は、本人が自覚していない「懈怠」の心を見抜きます。
兼好はここから、弓の話を「万事」へ広げます。道を学ぶ人は、夕方には「明日の朝やろう」、朝には「夕方やろう」と考えて、今すぐやることを後回しにしがちです。そして最後には、一刹那というごく短い瞬間の中でも、ただちに実行することは難しいと結びます。
現代語訳|話が広がる順番で読む
ある人が弓を射ることを習っていたとき、二本の矢を手に持って的に向かいました。
師が言うには、「初心者は二本の矢を持ってはいけない。後の矢を頼みにすると、最初の矢をおろそかにする心が生まれる。毎回、当たる・外れるという結果だけにとらわれず、『この一本にすべてを定めよう』と思いなさい」と言いました。
たった二本の矢なのに、師の前で一本をわざとおろそかにしようと思うでしょうか。いや、思いません。しかし、怠る心は本人には分からなくても、師には分かるのです。
この戒めは、あらゆることに当てはまるでしょう。道を学ぶ人は、夕方には「明日の朝がある」と思い、朝には「夕方がある」と思って、あとでもう一度、丁寧に取り組もうとその時を待ちます。
まして、ごく短い一瞬の中に怠る心があることに、自分で気づけるでしょうか。いや、気づきにくいのです。どうして、今この瞬間にただちに実行することは、これほど難しいのでしょう。
※本文の意味を中学生向けに整理した現代語訳です。本文確認にはやたがらすナビ『徒然草』第92段を参照しています。
二本目があると、一本目の心が変わる
師は、二本の矢そのものを問題にしているのではありません。二本目があると、一本目を外しても「まだ次がある」と思えます。
失敗しても次がある。
本人が気づかないまま、最初の一矢への集中がゆるむ。
今の一本だけに心を定める。
弟子自身は一本目を適当に射るつもりはありません。だから本文は、「一つをおろかにせんと思はんや」――一本をおろそかにしようと思うだろうか、いや思わない、と書きます。
師が見抜いたのは「自分では気づかない懈怠」
「懈怠(けだい)」は、怠ることです。この段では、露骨にさぼることではなく、本人には見えていない小さな心のゆるみとして出てきます。
怠る心は、自分では気づかなくても、師には分かる。
弟子は真面目に練習しています。それでも師は、二本目を頼みにする心が一本目に影響すると見ています。「自分では気づかない。師には見える」という師弟の差まで書かれている一文です。
「この戒め、万事にわたるべし」で話が広がる
「この戒め、万事にわたるべし」から、話は弓の稽古だけではなくなります。
道を学ぶ人は、夕方になると「明日の朝にやろう」と思い、朝になると「夕方にやろう」と思う。ここでも本人は「やらない」と決めたわけではありません。「あとで、きちんとやる」つもりで今を先へ送っているのです。
二本目の矢を頼む心と、次の時間を頼む心が重ねられています。
最後は「一刹那」「ただ今の一念」まで縮まる
文章の終わりでは、時間の幅がさらに小さくなります。「一刹那」はごく短い一瞬です。
そして最後は「ただ今の一念」です。「一念」はここでは時間の単位そのものというより、今この瞬間の心・思い。話は「明日」から「今の一瞬」まで絞り込まれます。
「今すぐやれ」より、本文が見ているもの
この段を「先延ばしするな」でまとめることはできます。ただ、それだけでは「みづから知らず」が抜けます。
弟子は一本目を手抜きするつもりではない。学ぶ人も「もうやらない」と考えているわけではない。それでも、次の矢や次の時間を当てにする心が生まれる。兼好は、その本人にも見えにくい心の動きを書いています。
中学生が覚えたい古語・表現
| 語 | 意味 | 本文でのポイント |
|---|---|---|
| もろ矢 | 二本一組の矢 | 二本目を頼む心が問題になる |
| 初心 | 習い始め | 初心者への戒め |
| なほざり | おろそか・いい加減 | 最初の一矢への心 |
| 懈怠 | 怠ること・気のゆるみ | 本人には自覚しにくい |
| 万事 | あらゆること | 弓から一般論へ広げる |
| ねんごろに | 熱心に・丁寧に | 「あとで丁寧にやろう」とする |
| 一刹那 | ごく短い一瞬 | 時間を一瞬まで縮める |
| 一念 | 一瞬の心・その時の思い | 「ただ今」の心に焦点を当てる |
中学で押さえる反語
この段で意味を取り違えやすいのは、「〜や」まで読んで終わらないことです。文脈に合わせて「いや、〜ない」まで補います。
一本をおろそかにしようと思うだろうか。いや、思わない。
怠る心があることに気づくだろうか。いや、気づかない。
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まとめ|「次がある」は、今の一回を変える
第92段では、二本目の矢を持つ初心者の小さな場面から、人が学び、行動するときの心の仕組みへ話が広がります。
ポイントは、弟子がわざと手を抜いているわけではないことです。本人が自覚していない「懈怠」を師が見抜く。そして同じことが、朝と夕、一刹那、一念にも起こると兼好は考えます。
「今すぐやれ」と暗記するより、なぜ二本目の矢が一本目を変えるのかを理解して読む方が、この段の内容はずっと残りやすくなります。
参考資料
本文の現代語訳・解説・確認問題は、上記資料を参照し、とだ塾の中学生向け教材として独自に構成しています。