『竹取物語』第6章「阿倍御主人」では、高価で美しい品物が、求めた品物の本物であるとは限らないことが描かれます。車持皇子は自分で枝を作らせましたが、阿倍御主人は唐土の王卿に手配を頼みます。二人の方法の違いに注意して読もう。
前章の第5章「車持皇子」では、職人の報酬請求が真相を明かしました。今回はかぐや姫が火鼠の皮衣なら火に焼けないはずという性質を使って確かめます。
先に読もう|竹取物語 第6章「阿倍御主人」
誰が皮衣を調達し、誰が何を信じ、どんな方法で本物か確かめるかに注目。上下に進んで物語を追い、左右で現代語訳や場面の背景を確認しよう。
「唐土へ買いに行く」と、誰が決めた?
右大臣阿倍御主人は財産の豊かな人物として登場します。火鼠の皮衣を求められると、唐土の王卿に買って送るよう手紙を書き、信頼できる使者の小野房守に金を持たせる。皇子のように自分で偽物を作った、と本文が言っているわけではありません。
「唐土」「天竺」は、どういう意味で出てくる?
「唐土(もろこし)」は中国を指す古語、「天竺」はインドを指す呼び名です。物語では王卿が、手元にはない珍品が天竺から唐土へ渡っていたという説明をします。現実の貿易記録を示したものではなく、ここでは品物の来歴をめぐる王卿の手紙の内容として読みましょう。
火鼠の皮衣のような超常的な宝が難題に並ぶ背景については、『竹取物語』の神仙思想を論じた研究でも扱われています。文献上の伝説と、作品中の皮衣が本物かどうかは別問題です。
なぜ阿倍御主人は本物だと思ったのか
皮衣が入っている箱には瑠璃の装飾があり、皮衣は紺青色、毛先には金色の輝きがあります。阿倍御主人は、火で焼けないという性質を確かめるより先に、その美しさと高価な来歴に心を奪われるのです。迎えの馬を走らせ、追加代金を喜んで払おうとする行動からも、期待の大きさがうかがえます。
※本文の場面を参考に生成AIで作成した絵巻物風イメージです。実在の絵巻・史料の画像ではありません。
かぐや姫は、どの条件を検証した?
かぐや姫は品物を見て美しさは認めますが、それだけでは本物だと断定しません。「火鼠の皮衣なら、火に入れても焼けない」という課題の条件に戻り、実際に火へ入れて調べるよう求めます。翁も大臣も同意しますが、皮衣は「めらめら」と焼けてしまいます。
立教大学図書館の『竹取物語絵巻』解説にも、皮衣を火にくべて燃える場面が取り上げられています。ここでは史料画像を転載せず、資料ページへのリンクとして案内します。
「燃える思い」を歌にしたら、本当に燃えた
阿倍御主人は、皮衣を贈る際に自分の「おもひ(思ひ)」が燃えることを歌います。火鼠の皮衣という題材と恋の情熱を重ねていますが、火で実際に燃えたのは皮衣そのもの。それに対するかぐや姫の返歌が、願いの実現とは反対の結末を際立たせます。
失敗後に物語は「あへなし」という言葉へ結びつけて終わります。第2章の「よばひ」や第4章の「鉢・恥」と同様、話の結末を言葉の由来らしく語る面白さとして読み、史実として証明された語源だとは扱いません。
文法は、火で確かめる場面から
五つの難題の中でも、火鼠の皮衣は「その場で検証できる」
仏の御石の鉢や蓬莱の玉の枝は、「本物がどんな物か」を確かめにくい宝です。それに対して火鼠の皮衣には、火に入れても燃えないという分かりやすい条件があります。現代語でいえば、見た目や値段ではなく、性質を実際に確かめられる課題です。
阿倍御主人は、瑠璃の装飾、紺青色の毛、金色の輝き、高額な代金といった情報から本物だと期待します。しかし、かぐや姫が火に入れると燃えてしまう。立教大学図書館の絵巻解説も、右大臣が高価な品を疑わず持参し、姫が火によって真偽を確かめる流れを紹介しています。高価で美しいことと、条件を満たすことは別なのです。
阿倍御主人は「嘘をついた人」なのか?
石作皇子や車持皇子は、自分で偽物を用意します。一方、阿倍御主人は唐土から取り寄せた品を本人も本物だと思い込んでいるように描かれます。だから燃えた瞬間の落胆も大きい。五人の失敗を全部「かぐや姫をだまそうとした」でまとめず、偽造した人・信じ込んだ人・危険に挑んだ人と失敗の型を分けると、難題譚の人物像が見えやすくなります。
原文に戻って3問確認
結論だけでなく、どの叙述が根拠か考えてから青い欄をタップしよう。
問1:阿倍御主人は最初から自分で偽物を作らせた?
問2:豪華な箱と金色の毛先だけで、本物と判定できる?
問3:「焼けずは」と「焼けぬ」は同じ否定?
第5章では作った人の証言、第6章では品物の性質を試すことが真偽判定の決め手になりました。原文が述べる事実と、登場人物の主張を分けて読む姿勢は、次の求婚者の話でも役立ちます。
原文の参照:『竹取物語』(國民文庫版)。絵巻解説:立教大学図書館『竹取物語絵巻』。章番号は本サイトの古典リーダーに合わせています。