「英単語って、どこまで覚えればいいんですか?」
中学生の英語を見ていると、この質問はかなり大事だと思います。
単語は、「知っている/知らない」の二択ではありません。
選択肢を見ればすぐ分かる。文の中なら思い出せる。単独で見せられても1秒くらいで意味が出る。音を聞いて分かる。自分で使える。
同じ「知っている」でも、かなり差があります。
そして私は、すべての単語を同じ強さで覚える必要はないと考えています。
大切なのは、その子が受ける試験、その単語の重要度、今の学力に合わせて、どこまで強く覚えるかを決めることです。
英語が平均点以下なら、まず単語を優先することが多い
英語がかなり苦手な中学生を見るとき、私はまず単語をかなり重く見ます。
文法も大切です。文の構造を取る力も必要です。背景知識や、問題文の意図を読む力も必要です。
ただ、単語がほとんど分からない文章では、そもそも何の話をしているのかをつかむのが難しくなります。
逆に、主要な単語がある程度分かれば、完全に訳せなくても、「学校の話かな」「環境問題の話かな」「この人は困っているのかな」という文脈が見え始めます。
そこから選択肢を比べたり、前後関係から意味を補ったりすることができます。
もちろん、単語だけで長文問題が全部解けるわけではありません。
文脈から読み取ったことを設問に合わせて処理する、似た選択肢の違いを見抜く、時間内に必要な情報を探す、といったことには、さらに別の力が必要です。
それでも、平均点よりかなり下から英語を立て直すなら、単語は入口として優先順位が高いと考えています。
「単語を知っている」には強さがある
たとえば、ある英単語を覚えているか確認するとします。
とだ塾では、感覚的には次のような違いを見ます。
- 選択肢があればすぐ分かる
- 文脈や周りの単語を見れば思い出せる
- 単語だけ見せられても、1秒くらいで日本語が出る
- 音で聞いても分かる、あるいは自分で発音できる
- 必要なら自分で使える
これは厳密な学術的な5段階ではなく、私が指導するときに見る実用的な目安です。
ただ、「単語知識には段階がある」という考え方自体は、語彙研究とも一致しています。
語彙研究でよく使われるNationの枠組みでは、単語を知ることには、音の形、文字の形、意味、語の一部、他語との結びつき、文法的な使われ方、連語など複数の側面があり、さらに「見聞きして理解できる受容的知識」と「自分で使える産出的知識」が区別されています。
つまり、一つの単語でも、知識は少しずつ深くなっていくと考えた方が自然です。
参考:I. S. P. Nation, Learning Vocabulary in Another Language: Knowing a word
「1秒で答えられる」は強い。でも全部そこまでやる必要はない
単語だけを見せられて、1秒くらいで意味が出る。
これはかなり強い状態です。
長文の中でその単語が出てきても、意味を思い出すことに長い時間を使わずに済みます。
その分、文全体の意味や設問を考える方に頭を使えます。
だから、一問一答形式で素早く意味を答える練習は、私はかなり有効だと思っています。
ただし、「理想的な到達状態」だからといって、「すべての単語を一問一答で完璧にするのが最善の勉強法」とは限りません。
時間は有限です。
試験に何度も出る基本語と、ほとんど出ない難しい語に、同じ時間をかける必要はありません。
単語ごとに、必要な「練習強度」を変えていい
私は英単語にも、練習の強度があっていいと思っています。
たとえば、受験で何度も出る重要語なら、単独で見ても素早く意味が出るくらいまで覚えたい。
一方、優先度の低い語なら、「選択肢なら分かる」「文脈の中で思い出せる」くらいで十分な場合もあります。
さらに、その試験ではほとんど必要がない語なら、今は深追いしないという選択もあります。
全部を100点の覚え方にしない。
これは手抜きではなく、限られた時間をどこに使うかを決める学習設計です。
兵庫県公立高校入試なら、頻出語を強くする
とだ塾では、兵庫県公立高校入試の英語について、兵庫県版英単語集「はば単2500」と2011〜2026年の入試問題を照合しました。
その結果、単語の出現頻度にはかなり偏りがありました。
そこで、過去問で繰り返し現れる語を中心にCORE250として整理しています。
兵庫県公立高校入試16年分×はば単2500の分析とCORE250はこちら
このような頻出語は、できれば「見たことがある」で終わらせず、かなり強くしておきたい語です。
逆に、同じ単語帳に載っているからという理由だけで、すべてを同じ回数・同じ深さで練習する必要はないと考えています。
試験に必要な単語を選ぶことと、その単語をどこまで強くするかを決めることは、別の問題です。
文字だけで英語を勉強するのは、少しもったいない
もう一つ、英語学習で私はかなり大事だと思っていることがあります。
英語を文字だけの学習にしすぎないことです。
言語は本来、目だけで扱うものではありません。
音があり、口の動きがあり、リズムがあり、実際に声を出したときの感覚があります。
人によって得意不得意はありますが、文字だけで覚えようとすると、言語が本来持っている手がかりを自分でかなり減らしてしまいます。
私は生徒には、単語や短い英文を音読してもらうことがあります。
これは「音読さえすれば英語が全部伸びる」という意味ではありません。
ただ、音と文字を結びつけたり、単語をまとまりとして処理したりする機会を増やすことには意味があります。
第二言語学習でも、同じ文章を繰り返し読む練習によって読解の流暢さや語の認識速度が改善した研究があります。
参考:Chang & Millett (2008), Repeated reading for developing reading fluency and reading comprehension
ですから、単語帳を見るだけでなく、見て、意味を思い出して、声にも出すという複数の経路を使う方が、少なくとも私は自然だと考えています。
「英文が読める」は、一つの能力ではない
「単語は全部分かるのに、英文が読めません」ということもあります。
これは不思議なことではありません。
英文を理解するには、単語だけでなく、文法、文の構造、背景知識、その文章が何について書かれているかという前提知識など、複数の要素が関わります。
単語が全部分かっても、話題があまりにも未知の世界なら、内容をつかみにくいこともあります。
逆に、多少知らない単語があっても、背景知識や前後関係から意味をかなり補える場合もあります。
中高生の第二言語読解についての研究でも、語彙だけでなく、形態に関する知識、ワーキングメモリ、メタ認知的な知識など、複数の要因が読解理解と関連することが報告されています。
参考:Tarchi et al. (2024), Key language, cognitive and higher-order skills for L2 reading comprehension
ですから、「読めない原因はこれ一つ」と決めつけるより、今どこが足りないのかを一つずつ見た方がいいと思います。
それでも、まず単語を増やす価値は大きい
原因が一つではないからといって、何からやればいいか分からなくなる必要はありません。
英語が平均点以下で、長文を見たときに分からない単語がかなり多いなら、まず語彙を増やす価値は大きいです。
語彙の広さや深さが読解理解と関係することは、多くの第二言語研究でも示されています。
参考:Grabe & Yamashita (2022), Vocabulary and Reading Comprehension
ただし、ここでも大事なのは「単語帳を最初から最後まで全部同じように覚える」ことではありません。
まず必要な単語を選ぶ。
その中でも、絶対に落としたくない語は、単独で見ても素早く意味が出るところまで強くする。
次の優先度なら、文脈で思い出せるところまで。
さらに優先度が低いものは、今は後回しでもいい。
単語を覚えることも、「何を、どこまでできるようにするか」を決める作業です。
「覚えた数」より、「必要なときに取り出せるか」を見る
英単語を500個やった、1000個やった、と数えることも一つの目安にはなります。
でも、試験中に必要なのは「見たことがある単語の数」ではありません。
その場で必要な意味を取り出せることです。
だから私は、単語学習でも、最後は再現できるかを見たいと思っています。
選択肢があれば分かるのか。文脈なら思い出せるのか。単独でもすぐ出るのか。
そして、その単語に本当にそこまでの強さが必要なのか。
全部を同じ方法で、全部を同じ深さまで覚えようとしなくても大丈夫です。
必要な単語を、必要な強さまで。
その方が、限られた勉強時間を使いやすくなると考えています。